取り組みに密着して思うこと

( 2021年度 「CINGA日本語学習支援者に対する研修プログラム普及事業」の報告 あとがき)

令和3年度のCINGA日本語学習支援者研修プログラム普及事業にライターとしてお声がけいただき、1年間事業の流れを見せていただきました。

この事業は多文化共生のまちづくりに向けて、地域社会を構成する住民の中から日本語学習を支援する人材を育成していこうというものです。研修プログラムの詳しい内容はここでは割愛しますが、「最近外国人増えてきたよね」で終わるのではなく、それによって自分たちのまちはどう変わるのか、どう変えていくべきなのかを考えるきっかけとなる内容になっています。

さて、私自身ですが、「多文化共生」というテーマに比較的なじみのある場所を生きてきました。元々はライターですが、言葉への興味から日本語教師としても働くようになり、現在も専門学校の介護福祉学科の留学生に日本語を教えています。また、ブロック紙が制作している「やさしい日本語ニュース」にも関わっています。

その中で感じていたのは、日本に住む外国人が増加しているのに、「多文化共生」の視点を持つ人がなかなか増えないという現実です。「そのうち帰る人たちだから」と軽視する人は今も多いですし、教え子から「日本人はどうして外国人を一括りに考えるのか。一人ひとりを見ないのか」と怒りをぶつけられて、ハッとしたこともあります。

彼らは、職場や学校だけで生きているわけではありません。私たちと同じようにまちに住み、食事をし、ごみを出している生活者です。「わかる人がわかればいい」ではなく、同じ地域でともに生活する住民同士として接し、どのように共存していくかを地域全体で考えていかなければならない段階に入っているのではないでしょうか。

どうしたら「多文化共生」の考え方を広められるのでしょう。もちろん一朝一夕では難しいことです。その取り組みには持続性がなければなりませんし、どこか遠くの話ではなく、自分たちのまちのこと、つまり「自分ごと」であることに気づく仕掛けも必要だと思います。このCINGA事業もその一つといえるでしょう。

令和3年度のこの事業には、千葉と長崎が参加しました。そこには、それぞれの地域からの参加メンバーが、少しでも気づきを得ようと、真摯に学び合い、話し合う姿がありました。そして事業が進む中で、多文化共生社会に向けた取り組みの大きな強みになる「つながり」が生まれるのを感じたのです。

それは職域を超えた人と人とのつながりです。この事業のゴールは、それぞれの地域での住民向け研修の実施です。その準備を兼ね、地域メンバーは最初の数か月をかけて、東京のCINGAメンバーと異文化理解や言語調整能力、対話といったテーマについて議論する研究会をもちます。そのうえで、CINGAの研修プログラムを、それぞれの地域事情に合った「ご当地版」に最適化し、自分たちで研修として実施しました。

そのプロセスでは、研究会の回を重ねるごとに、参加メンバー同士の結束が固まり、自分たちを「千葉チームでは」「長崎チームでは」と名乗る場面が増えていきました。メンバーを構成するのは、自治体や国際化協会職員、日本語教育関係者……。これまでそれぞれの「守備範囲」で多文化共生を考えてきた人たちが、お互いの枠を取り払うことで、カラフルで横断的なネットワークが築かれていき、伴走するCINGAメンバーとの連携も深まっていきました。

社会課題が複雑化し、福祉分野などでは多機関・多職種連携は当然のものとなっています。多文化共生もまた、1つの機関だけでは、できることに限界があるのではないでしょうか。国による体制整備も待たれるところですが、もし今、多文化共生という大きなテーマを前に「何をどう始めたらいいのか」と悩んでいるなら、まずは、立場や職域を超え、これからの地域のありかたについて語り合うことから始めてはどうでしょう。今はオンラインでの集まりが容易になり、その点ではチャンスも広がっているともいえます。そうした場でのつながりがきっかけとなり、全国各地に「〇〇チーム」が増えたなら、日本語学習支援者の育成、そしてまちぐるみの多文化共生への取り組みがもっと加速していくのではないかと考えています。

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〈 記事執筆 〉
金子恵妙(かねこえみ):ライター、日本語教師、社会福祉士
富山県出身。公務員、ブロック紙記者を経てライター。人と人をつなぐ「言葉」への興味から日本語教育にも関わる。現在は、国内で日本語を学ぶ人たちの暮らしに視点を広げ、多文化共生をテーマにインタビュー記事などを書いている。

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2022年6月